エコノミークラス症候群は「ロングフライト症候群」とも呼ばれていて、飛行機のエコノミークラスなど、狭い空間で同じ姿勢を長時間続けることで下肢(膝から下)などに血の塊(血下肢静脈血栓)でき、それが血流に乗って肺の血管に詰まって肺塞栓症を起こす病気のことをいいます。本記事では、その症状について詳しく解説をしていきます。
目次
1、エコノミークラス症候群とは?
「エコノミークラス症候群」
東日本大震災以降、新聞やニュースで目にした人も多いのではないでしょうか。
エコノミークラス症候群は、飛行機以外にも日常生活でも十分に起こり得る身近な病気です。特に避難生活においてはエコノミークラス症候群になるリスクが高く、大きな震災などでは避難所や車中泊により命を落とす人もいるほどです。
同じ姿勢を長時間続ける事でこの「エコノミークラス症候群」を発症するケースは多いですが、なぜいきなり長時間同じ姿勢をしていた人が動き出すと意識を失ったり、死に至ってしまうのでしょうか? その原因と症状を探っていきます。
1-1, エコノミークラス症候群の症状
エコノミークラス症候群には2つの症状が隠れています。
エコノミークラス症候群は「深部静脈血栓症」と「肺塞栓症」が合わさって起こる症状です。この2セットが非常に多い事から1つの症状として「エコノミークラス症候群」と呼ばれるようになりました。
1-1-1, 深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)
同じ姿勢を長時間続ける事で深部静脈(大腿静脈・膝窩静脈など、体の深部にある静脈)の血行が悪くなりそこに血栓(血の塊)が出来る病気です。
深部に血栓ができた場合は下肢の腫れ、下肢痛、下肢の色調変化で血栓より遠位の浮腫などといった症状が出ますが無症状の場合もあります。
特に下肢静脈血栓は左に起きやすく、これは左の総腸骨静脈と右の総腸骨動脈が交差しているため、後者によって前者が圧迫されやすいためです。
体の深部静脈に血栓が出来た場合はその静脈と周囲の皮膚に炎症を起こし、血栓性静脈炎を引き起こすこともあります。
1-2, 肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)
血栓(血の塊)が肺の動脈に詰まってしまう状態です。
肺の動脈を血の塊で塞いでしまう事で、通常肺から身体全体に送る酸素を送る事が出来なくなり血液循環に障害が出ます。
1-2-1, 肺血栓塞栓症の症状
冷や汗、失神、頭痛、動機や頻脈、強い胸の痛み、また強い咳や血痰、呼吸困難、頻呼吸(ひんこきゅう)(呼吸回数が多い)があげられますが、血栓が小さい場合には症状がないこともあります。しかし、血栓が大きく、太い血管に詰まった場合には、ショック状態となり、最悪の場合死に至る場合もあります。
2, 具体的にどんな症状がでるのか?
エコノミークラス症候群になった際どんな症状が現れるのを、段階に分けて紹介させていただきます
2-1, 初期症状
初期症状では血栓はできていないですが、血流が悪くなり下記のような症状が現れます。
・足のしびれや痛み
・足の浮腫
・片足の軽い痛み
座ったままでいると足がしびれてきたり、むくみを感じることはありませんか?
そのような症状が現れてきた時は血流が悪くなっていますので注意が必要です。
2-2, 重症例
長時間同じ姿勢を取ったあと急激な動作等が原因となり、足にできた血の固まりが肺に詰まり、息が苦しくなり、胸の痛みを訴えて失神することがあります。
肺動脈が詰まってしまうので、動脈血中の酸素濃度は低くなります。
心臓は酸素不足を補う為に頻繁に血液を送り出すので、安静状態でも脈拍が増え、脈が1分間に100回以上になる事もあります。
肺がたくさんの酸素を取り込もうとし、心臓は酸素を体に行き渡るようにするので息苦しくなるのです。
肺動脈の血液がせき止められることで、肺動脈内の圧が上昇し、肺血管が太くなることや血圧が下がってしまい心臓を養う冠動脈の血流が少なくなることも痛みの原因です。
2-3, 最悪の場合
肺内部の毛細血管は酸素と二酸化炭素を交換する働きを持っているため、この毛細血管が塞栓してしまった場合は呼吸困難となってしまい、重度になると心肺停止状態になり、死亡にいたる場合もあります。
3, 発病する原因
では、エコノミークラス症候群が発生する原因は何なのでしょうか?
3-1, 長時間同じ体勢でいる
飛行機やバスといった長時間同じ姿勢で座ったままでいると、足の血管に少しずつ血液がたまり、ひざの裏や太ももの奥にある静脈に血のかたまり(深部静脈血栓)ができます。
血液は、筋肉の収縮運動で足から心臓に戻ります。
長時間、座ったままで足を動かさないままでいると血液の流れが滞って、血液のかたまりができやすくなります。
3-2, 脱水
機内の乾燥がもたらす脱水です。
トイレへ行くことを回避しようと水分摂取を控えてしまうことが原因の一つです。人間は身体の水分が一定以下になると血液がドロドロとかたまりやすくなります。
3-3, 乾燥や気圧
乾燥した室内では体内の水分が失われてしまいます。
また飛行機の中は気圧の変化から水分が減り、大変乾燥しているので、機内では1時間に80ccの水分が体から失われます。
このような状態で水分を補給しないと、血液が濃くなってドロドロになり血栓ができやすくなります。
4, エコノミー症候群になりやすい要因
エコノミークラス症候群の原因である血栓が、できやすい人とそうでない人がいることが解明されています。
血栓ができやすい人はどんな人なのかを紹介させていただきます。
4-1, 血管に傷がある
血液は24時間血管の中を流れ続けていますが、血管内皮が傷つき血管が異物と触れるとたちまち血液が固まり傷を修復させようとする作用があります。
そのため、外傷や骨折などで血管が傷ついたり、手術後などは血栓ができやすくなります。
4-2, 生活習慣病
生活習慣病の症状と言えば「高血圧」「高血糖」「高コレステロール」が有名ですが、これらは全て血液が関係していて、血液がドロドロの状態になっているのです。
血液中の糖や脂質(コレステロール)が高いと、血液が固まりやすく血栓ができる原因になります。ですので、通常の生活においても血栓ができやすい生活習慣病患者は、動きが固定された環境下ではより危険な状況にあるのです。
4-3, 喫煙
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ血流を阻害するほか、血管の炎症を引き起こすことからも血栓を作りやすくします。長いフライトの前後は喫煙を控えることをおすすめします。
4-4, 骨折等のけがをしている人
怪我で骨折や手術を受けたりすることが原因となり、血管が傷ついて異物が混入して血液が固まりやすくなります。
怪我や処置を受けている場合は、血栓ができやすくなっているので注意が必要です。
4-5, 下肢静脈瘤を発病している
下肢静脈瘤とは静脈弁の異常から血液が逆流・滞留をし、それが静脈の壁に当たることで壁がコブのように膨張します。それが下肢部のむくみとして現れる病気です。
下肢静脈瘤があるからといって、エコノミークラス症候群になりやすいという、直接的な因果関係があるわけではありませんが、下肢の血管に病状を来す生活習慣的な共通点はあり、間接的に下肢静脈瘤があるとエコノミークラス症候群になりやすい可能性があります。
6, エコノミークラス症候群にならない為の予防と対策
命の危険もあるエコノミークラス症候群ですが、飛行機などの移動の際にできる簡単な予防方法を紹介させていただきます。
6-1, 足を動かす
トイレの場所まで歩いたり、座席から立ち上がるなどをして身体を動かすことを意識しましょう。その際にはもちろん安全には気をつけてくださいね。
座ったままであっても足首を伸ばしたり曲げりゆっくりと回すことや、つま先立ちをしてかかとを上下に動かすことを行えば、効率的な予防になります。
6-2, マッサージ
座ったままでふくらはぎを手でもみほぐすだけでも効果的です。
しかし、すでに血栓ができている場合は、血栓が血管からはがれやすくなるため、逆に危険な行為になりますので注意が必要です。
6-3, 弾性ストッキングを着用する
エコノミークラス症候群を予防するためには血流を促す弾性ストッキングを履くことも効果的です。
医療機関に取材をしたところ、おすすめはやはり医療用の弾圧ストッキングであり、その中でも「JETLEGS ®」は一般医療機器として認定を受けている商品で、非常に効果的だそうです。市販の弾性ストッキングとの大きな違いは、高い圧迫圧と段階圧です。ただ締め付ければいいわけではなく、足の甲や足首が最も着圧が強く、上に行くに従って弱くなっていくと血流が最もスムーズになります。また、この商品は抗菌作用もあり、匂いも気にならない作りになっているため、履き心地も快適です。
6-4, ゆったりした服を着用する
デニムなど体に密着をして、締め付けるような服装は控えましょう。
ゆったりをした服装をすることは精神をリラックスさせるだけでなく、血流のスムーズにもするので、エコノミークラス症候群の予防に効果的です。
6-5, こまめな水分補給
こまめな水分補給をすると、血液中の水分量が保たれるので血液がドロドロとしなくなります。ドロドロした状態だと血栓ができやすくなるため、意識的に水分を摂るように心がけてください。
6-6, 禁煙する
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ血流を阻害させます。
普段からの禁煙が望ましいことは間違いないのですが、喫煙者の方は長いフライトの前後は喫煙を控えるようにしましょう。
6-7, 睡眠薬は飲まない
睡眠薬で熟睡してしまうと、無意識に長時間同じ姿勢をとることとなり、さらにエコノミー症候群の発症率を高めてしまう恐れがあります。
7, まとめ
エコノミークラス症候群は飛行機だけではなく、バスや新幹線などの長時間座ったままの状態が続く際に起こる可能性があります。重症化すると非常に怖い病気ですので、小まめな予防策をしっかりと行ってくださいね。